移民と「ディアスポラ」−送金から頭脳還流へ 2006年8月
−移住と開発に関するハイレベル討議に向けて Vol.5

アフガニスタン
IOMの支援で移住先から母国に戻り治療にあたる医師
©IOM 2000 - MAF0011

「移住と開発」との関連で、近年移民の送金に関心が集まっています。世界銀行によると、正規の金融機関や送金業者を利用した移民の本国への送金は、昨年総額で約2,320億ドルに上りました。このうち開発途上国への送金の占める割合は約70%(1,670億ドル)で、同じ地域に対する先進国からの政府開発援助(ODA)の2倍以上の規模になっています。日本からも昨年約26億ドルがブラジルやペルーなどラテンアメリカ諸国に送金されていますが、これは1990年代以降、この地域からの日系人の移民が急増していることを反映しています。

但し、移民の送金には、ODAとは大きく異なる特徴があり、金額だけを根拠に開発への効果を論じることは出来ません。ODAは主として、政府機関または国際機関を通じて、初等教育や公衆衛生といった特定の優先分野に対して政策的に割り当てられます。これに対して、移民の送金は、本国に残してきた家族に対する仕送りが中心で、当然その使い道も「子どもの教育費」や「家の新築」など各家計の事情に応じて異なります。ITや医療従事者といった専門・技術職の移民の場合、先進国への移住によって大幅な収入の増加が期待できますが、総じて本国への送金レベルは高くないと言われています。むしろ、収入の多くが移住先での貯蓄や投資に当てられる傾向がみられます。従って、個人レベルで見れば全般的に小規模な移民の送金を元手として、事業への投資や雇用の創出といった持続的な開発効果を高めるには、移民とその家族に対する制度的な支援が必要になります。例えば米州開発銀行(IDB)は、ラテンアメリカで移民とその家族を対象とした小規模融資(マイクロ・クレジット)と技術指導を組み合わせた起業支援を進めています。

「移住による開発」を促進するもう一つの重要な要因として、「ディアスポラ(diasporas)」と呼ばれる移民コミュニティーの役割が挙げられます。「ディアスポラ」とは一般に、出身国との間に何らかの絆を持つ移民集団を指す言葉で、東南アジアなど世界各地に散らばる華人(僑)(注)の活躍は良く知られています。今の中国のように本国が経済発展へ向かう過程で、元々文化的な絆を持つ「ディアスポラ」は、積極的な投資や技術移転を通して本国に大きく貢献することができます。

「ディアスポラ」は紛争後の復興・平和構築でも重要な役割を果たします。2001年からIOMが実施したアフガニスタンへの専門家の帰国支援は、この代表的な例と言えるでしょう。また「ディアスポラ」は、移住先の受入国と出身国との架け橋としても重要な役割を果たします。例えば、英国では、シエラレオネやインドへの開発援助計画を策定するに当たって、両国出身の移民が援助機関へのアドバイザーとして積極的な提言を行っています。

IOMは、復興支援に留まらず発展途上国が必要とする幅広い人材、技術、資金移転を進める事業を行っていますが、その前提として出身国の開発支援に参加するため一時帰国する移民に対する特別休職制度や移住先への再入国の保証といった、制度面の環境整備が極めて重要です。「ディアスポラ」の役割と貢献に関する最新の資料としては、今年5月ニューヨークで、国連訓練調査研究所(UNITAR)と国連人口基金(UNFPA)との共催で行ったワークショップの記録をぜひご覧下さい。 ワークショップの詳細→

また、移民の送金に関しては、下記の資料も参考にして下さい。

  • 今年2月、ベナン共和国のコトヌーで開かれた後発開発途上国での移民の送金が開発に与える効果を高めることを目指す閣僚級会議の記録 詳細→

  • "Migrants' Remittances and Development: Myths, Rhetoric and Realities"
    IOMがThe Hague Process on Refugees and Migrationと共同で出版した「移民の送金と開発」に関する報告書 詳細→


(注)華人は一般に移住先の国籍を取得した中国系住民のことを指し、国籍を取得していない華僑と区別される。

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