国境を越えた人の移動の中で、近年国際的な関心を集めているものに発展途上国から先進国への医療従事者の移住問題があります。高齢化人口を抱える多くの先進国は、医療分野における人手不足に対応するため外国から看護師らの受け入れを進めています。日本も現在交渉が進んでいる経済連携協定(EPA)に基づいて、近い将来フィリピンから看護師と介護師を受け入れることを検討しています。その意味で、他の先進国の取り組みは日本にとっても大いに参考になるでしょう。
2004年、IOMは外務省との共催で「国境を越えた人の移動−経済連携協定と外国人労働者の受け入れ−」と題したシンポジウムを行いました。シンポジウム詳細→ この時IOMが準備したバックグラウンド・ペーパーによると、米国、英国、アイルランド、カナダの4カ国で、外国人看護師の占める割合は4-8%にのぼります(注)。特に高い割合を示している英国とアイルランドの場合、向こう数十年間でさらに採用数が倍増することが予想されています。これより少し古いデータになりますが、2002年に英国に移住した医療従事者は看護師約13,000人、医師約4,000人に上り、主な出身国は南アフリカ、フィリピン、オーストラリア、インドとなっています。この場合、英語という共通語の存在が大きな促進要因になっていることは言うまでもありません。例えば、同じように少子・高齢化に直面しているノルウェーでは、外国からの看護師の受け入れ人数は2001年が228人、2002年が260人と、人口の少なさを考慮しても比較的低いレベルにあると言えます。
「移民と社会の双方にとって利益をもたらすような移住」という理念を実現する上で、「頭脳流出」にどう対応するかは、大きな課題の一つです。医療従事者の移住の背景には、国際的な収入レベルの格差に加えて、HIV/AIDSの蔓延などで発展途上国の医師や看護師が直面している二次感染の危険性、不十分な医療施設、先端医療技術を習得する機会の不足、といった根の深い問題があります。「頭脳流出」の問題に対しては、英国が既に一部の発展途上国から医師や看護師を公立医療機関に採用することを禁止する措置を取っています。また、出身国との間で労働者の受け入れに関する協定を結び、一定期間の就労を終えた医療従事者の帰国を促進し、同時に出身国の医療機関に対する技術協力を提供する、といった対策も検討されています。
今年IOMは「移住におけるパートナーシップ:民間セクターと市民社会との連携」を統一テーマに、移住問題に関する一連の国際フォーラムを開催しています。その一環として3月23-24日に、ILOとWHOの協力を得てジュネーブで開かれた「移住と医療分野の人材―知識から行動へ」と題したワークショップでは、医療分野の移住問題に対する具体的なアプローチが話し合われました。ワークショップ詳細→
(注)各国の内訳は、英国8%(2001年)、アイルランド8%(2002年)、カナダ6%(2001年)、米国4%(2000年)。
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